■本草研修 平成薬証論
研修内容 (薬物の薬味・薬性・薬能 薬物の証 気血水)
「平成薬証論」渡辺武著を基本テキストとして、薬物(生薬)の薬味・薬性・薬能、薬物の証、原因論的気血水論に基づく気血水分類等について解説、薬物の基礎知識を研修
平成薬証論について
東洋医学の特性は陰陽虚実と、それを宇宙レベルに展開した陰陽五行論の統一原理に拠っていることである。方剤構成の原点である漢薬の薬効も、五行の五味(酸苦甘辛鹹)と五性(涼寒平熱温)の二つで表現している。薬物や食物に陰陽虚実を寒熱比(陰陽比・水血比)で規定し、薬物・食物の適応臓腑・器官をそれに対応する五味(酸苦甘辛鹹)の薬味で規定したユニークな薬効表現法である。
陰陽五行の原理から、方剤構成を見ると、どの方剤も気剤(温熱剤)・血剤(寒剤)・水剤(利水剤)・脾胃剤(甘平剤)の四つの中の一剤から四剤の組み合わせで、すべての漢薬は気・血・水・脾胃の何れかに所属するものである。漢薬と漢方には更にその薬物その薬方が適応する薬証と方証とが規定され、病像を解消する薬物と薬方が設定されている。
中国本草ではなお、欧米の医薬学の病名と薬物の生理作用だけの薬効表現を超えた、経絡の面からの人間工学的な薬効表現として、帰経・入経がある。
しかしこれらの優れた薬物選定のユニークな基準は、時代により著者により、区々まちまちで中国でも日本でも、今日まで整理検討されず、古人の諸説を累積したまま伝承されてきた。それは薬物選定の基準であり、物差しである。基準・物差しが区々まちまちでは誤差が生じて中国医薬学の特質である方証一致の原則は期待できない。中国医薬学が明日の医薬として、二十一世紀の世界の人類の平和と健康に貢献するためには、この中国医薬の統一原理の一本化が先決問題と考えられる。本書は日中医薬研究会での私の講義の録音とビデオから抄録したもので、紙面の都合で原稿の二分の一から十分の一に纏めたものである。本文の紙面を活かすために字句の解説・起源動植物鉱物名・主要成分・処方例などは欄外に挙げた。 「平成薬証論」自序より一部抜粋
■処方研修 平成薬方論
研修内容 (処方構成 方意 方証 方技 古典)
「平成傷寒論・平成金匱要略」より処方毎に条文を抜き出し、また、「平成薬証論」より構成薬物の薬味薬性薬能を抜き出し、処方の方意を病因病理・薬理薬能・治法から解説、方剤の基礎知識を研修
平成薬方論について
「平成薬証論」渡辺武著・「平成傷寒論・平成金匱要略」河合斉著から見た処方の方意解析
日本漢方では随証治療・方証一致がその方技運用の根幹をなしているが、それは葛根湯の証・葛根湯証のように表現され、その処方の使用目標として、症状・症候群と脈証・腹証など漢方独自の判断基準の複合したものとして示されている。しかし、それと完全に一致する病患に出会うことは少なく、多くはその中の複数或いはひとつふたつの症状や証が当てはまることで使われることも多く、いわゆる証を拡大した応用的な使い方が大半である。
そのような中、「平成薬証論」においては新たな証を開発しその方技運用に便ならしめ、また、原因論的気血水論を提唱し、薬物の薬能・薬証及び調剤原則を明らかにし、どうして治るのかの本質的原理を明らかにした。また、それを基盤にして「平成傷寒論・平成金匱要略」では難解な古典を現代的な生理観・病理観で理解できる表現で解説し、薬物の薬理薬能、症状病像の病因病理、そして治し方治法を明らかにして方技の真髄を示してきた。
「平成傷寒論・平成金匱要略」から処方ごとに条文を集め、葛根湯の証・葛根湯証として示される処方の方意をどのような病因病理で起きている症状・症候をどのような薬理薬能を持った薬物を使いそれを組み合わせてどのような治し方・治法で治そうとしているのかを現代的な表現でまとめたものが平成薬方論である。
これまでの長い歴史の中で積み上げられてきた口訣的運用、類証鑑別等に加え、病患の訴える病症がどのような病因病理で起こっているのかを明らかにして、薬理薬能・治法に合致させて処方選定をすることは、より効果的な方技運用の決め手である。ともすれば患者への症候の適応が中心となる医系の漢方とは違い、漢方は臨床薬学であるとの考えのもと薬物を中心に漢方を追求し臨床を行ってきたのが薬系漢方である。年号が変わり新しい時代が始まる今、昭和の漢方復興運動から平成へと日本漢方の一翼を担ってきた薬系の漢方家達が積み上げてきた小さな一歩をしるすものである。
■処方運用研修 抜粋方輿輗
研修内容 (処方運用 方技 古典)
古方を中心に後世方・折衷方合わせて81処方を症候別に編纂された「稿本方輿輗」の各編から抜き出し処方ごとにまとめた「抜粋方輿輗」をテキストとして古典の読みと読解、その方剤の適応範囲、応用方法を研修。
稿本方輿輗と抜粋方輿輗について
稿本方輿輗は、平安の医家有持常安先生(1758-1835)の学塾の講義記録である。京都名家墓墳録(922)、京都の医学史(1980)によれば、有持常安、名希藻、常安は通称。阿波の人。19歳の折京師に上り知恩法親王の侍医となり法橋に任ぜられた。天保6年1月16日没。卒年78。裏手町蛸薬師下称名寺に葬る。とあり、方輿2巻、腹侯要訣1冊、方輿輗15巻の著がある。
刊本方輿輗15巻は先師三角法眼や諸家の禁方まで収載され、輿輗は貴人を乗せる車、御所車のことで、貴重な秘方を収めた書物の意で方輿輗と名付けられたものであろう。
大塚敬節先生の蔵書の稿本方輿輗は和田東郭の門人窪田氏が叮嚀に写本したもので、版本方輿輗の四倍の内容があり、刊本にない腹証、口訣、類証鑑別などが詳しく述べられ、17巻となっていて、上中下3巻に分冊して燎原書房から出版(1973)されている。
巻の1婦人科から巻の2小児科、巻の17廱疾、疥癬、痔など外科から皮膚科にわたり症候、薬方、目標、類方判別、類証鑑別から、奇方や灸治療まで言及されている。その上収載の処方は古方を中心にして、広く常用の後世方、折衷方にも及んでいて、今日方技を研修する人々には、まことに恰好の教材である。
私は先に鐘紡漢方研究所長在職の時、漢方家の教材に稿本方輿輗を方剤別に分類整理して、方剤の適応範囲、応用の学習の便をはかって、抜粋方輿輗1巻を刊行(1975)した。それは同社の製品の範囲に局限していたので、この度現代漢方家必須の処方28方を加え、およそ80方を収めて本とした。本書を踏台として、方の正しい活用が期されれば幸である。終わりにこの製作に協力された碇裕弘君と北京から来日中の劉英琴さんに深謝申し上げる。
1986年2月 日中医薬研究会創立10周年に当って 於草古薬室 後学 渡辺武